僕は常に何かしらの本を読んでいないと落ち着かない半活字中毒者なのだが、本を読む上で重要視していることがある。
それが感触だ。
本を買うと本屋の方で紙のカバーをしてくれるが所詮は紙。
本を守るには心もとないし、持った時の感触もいまいちだった。
そもそも、最近はほとんど古本屋で買うのであのカバーも縁がないのだが。
本を読んでいる時は触っていて気持ちいいものをカバーにしたい。
紙のカバーだと手の水分を吸われてしまうし、ザラザラ感が伝わってきてしまって本の世界にどっぷり浸かりにくくなる。
本当に些細な違いなのだけど。
考えた結果、やはりレザーのブックカバーだと思い、色々なカバーを試した。
イルビゾンテなどブックカバーとして定番のものなどを使ってみたけど最終的に落ち着いたのがHENRY CUIR(アンリークイール)のブックカバーだ。
アンリークイールとは
アンリークイールはイタリアのレザーブランドでイタリアンレザーの”品の良さ”をあえて払拭して、どちらかというと”エスニック”な印象を受けるアイテムが多い。
デザイナーのエンリー・べグリンがヒッピー文化に影響されていたことがアイテムにも色濃く反映されているのだ。
元々、サッカー選手でセリエAで活躍していたという異色の経歴を持つ。
すべての工程を手作業で行い、縫製も手縫いで工業的な要素が一切ない。
自分が好きなモノだけを作るという自由さがアンリークイールの魅力だ。
革は間違いなく最高級でしっとりと十分にオイルを含んだ牛革やラクダ革などを使用している。
僕のは牛革で、革の匂いが何とも心地よく、柔らかいがハリもあり、よいエイジングをしてくれそうな上質な革だ。
革質がとてもいいので傷などがついてしまっても、柔らかい布で拭けば傷も目立たなくなるという復元力を持っている。
特徴的な”刺繍”も人気の理由
ヤシの木と犬の刺繍が可愛らしい。
刺繍も様々な種類があり、自転車や花などもあった。
イタリアのレザーっぽくない佇まいだけどそれがまた面白い。
たまにデザイナーが来日して刺繍を足したりしてくれるらしい。
僕はその機会があれば自転車を追加してもらいたい。
革の色はブラック、ダークブラウン、ベージュ、レッドが基本でその時々で入荷も変わる。
ネイビーやイエローなんて色も入る時もあるらしいが滅多になさそうだ。
手作りなのでデザイナーの気分次第というわけだ。
店舗には新品の商品の隣に、何年も使い古されたスタッフの私物が展示されているのだけど、その経年変化が素晴らしい。
新品時はマットな質感でよそよそしさを感じる革なのだが、それが艶を帯び、あちこちに傷が入りながらも大切に扱われていたのがわかるくらい革が生き生きとしているのだ。
全くの”別物”といってもいいくらい経年変化によって様変わりするのがアンリークイールを選んだ理由だ。
僕のブックカバーはまだまだで、これから1年、2年と月日が経つごとに僕の手に馴染んでくるだろう。
紐の先にはヴィンテージのトンボ玉
ブックマーカー(しおり)となるレザーの紐の先にはアンティークのビーズが施されている。
トンボ玉と呼ばれるヴェネチアのガラス工芸でだいたい500年前のものだ、
当時はその高度な技術と芸術性でアフリカをはじめとする世界各地に輸出され、金、銀や象牙などと交換されていた。
それが巡り巡ってこのブックカバーのしおりに彩られていると思うと、なんだか感慨深いものがある。
アフリカの人達も貴重な金、銀などの鉱山資源を交換してまでこのトンボ玉が欲しかったのである。
それほど、美しくて人の心を動かすなにかがある。
近年もかなり高額な取引がされている代物で、それをブックカバーに使うとはなんとも贅沢な使い方だ。
こっちの上部にも小ぶりのトンボ玉がついている。
手作業ではないとこういう付け方はできないだろう。
革もそうだが、トンボ玉も一つとして同じものはないので、アンリークイールはすべてが一点モノといえるだろう。
僕の手の脂を吸収して艶を深めていくブックカバー。
本を読んでいる時はこのレザーの匂いと感触がより僕の心をリラックスさせてくれる。
まだ、ページ数の多い文庫本はこのカバーに収まりきらないのだけど、使っていくうちに革も伸びて入れられる本も増えていくはずだ。
赤から深いボルドーへと変化していくらしいのでその過程を存分に楽しんでいこうと思う。